42歳で初めてロードバイクのペダルを踏んだあの日から、もう10年以上が経ちました。
健康診断で「要注意」の文字が踊る結果を前に、「これはマズい」と焦った私が出会ったのが、街の自転車屋さんのショーウィンドウで静かに佇んでいた一台のロードバイクでした。
その時の私は、階段を上るだけで息切れし、5kmも走れば足が棒のようになる「体力ゼロ」のミドルエイジ。
でも今振り返ると、あの時の決断が私の人生を180度変えてくれたのです。
この記事では、同じように「もう若くないし…」と諦めかけているあなたに、中年からでも始められるロードバイクの魅力と、無理をしない楽しみ方をお伝えします。
長野県松本市で地方公務員として働きながら、週末は北アルプスを眺めてペダルを回している私の実体験をもとに、失敗談も含めてありのままをお話しします。
年間5,000kmを走り、地元のサイクリングイベントにも関わる今の私ですが、始まりは本当に小さな一歩でした。
目次
なぜ中年からロードバイクだったのか?
きっかけは「健康診断」と一本の坂道
40歳を過ぎた頃から、毎年の健康診断が憂鬱になっていました。
血圧、コレステロール、中性脂肪…数値は右肩上がり、体重もじわじわと増加。
医師からは「運動不足ですね」と言われるものの、何から始めればいいのかわからない。
そんな時、たまたま通りかかった松本城近くの坂道で、颯爽と駆け上がっていくロードバイクの集団を見かけたのです。
「こんな急な坂を、あんなに軽やかに…」
その光景が頭から離れませんでした。
年齢と向き合う中で見つけた「走る理由」
中年になって初めて気づくのは、「体力の衰え」という現実です。
20代の頃は当たり前にできていたことが、だんだんとしんどくなる。
でも、調べてみると[40代からでも適切なトレーニングで体力向上は十分可能][1]だということがわかりました。
むしろ、若い頃のような無茶ができない分、計画的に取り組める中年だからこその利点もあります。
私がロードバイクを選んだ理由は以下の通りです:
- 膝への負担が少ない:ジョギングと違い、体重がサドルで支えられる
- 強度を自分で調整できる:疲れたらゆっくり、元気な時は頑張れる
- 移動手段にもなる:通勤や買い物にも使えて一石二鳥
- 一人でも楽しめる:チームスポーツと違い、自分のペースで続けられる
はじめてのヒルクライム棄権とそこからの再スタート
ロードバイクを始めて3ヶ月後、調子に乗って地元のヒルクライム大会にエントリーしました。
「これまで毎週末に10〜20km走ってるし、なんとかなるだろう」
そんな甘い考えで臨んだ美ヶ原への道のりは、想像を絶する厳しさでした。
スタートから5分で息が上がり、途中で足が攣って動けなくなり、結局棄権という屈辱的な結果に。
でも、この失敗こそが私のロードバイク人生の転換点でした。
帰り道、悔しさと同時に「もっと自転車のことを知りたい」「正しい乗り方を身につけたい」という気持ちが湧き上がったのです。
その日から私は、機材の研究やペダリングの基礎、体力づくりの方法を真剣に学ぶようになりました。
最初の一歩:機材選びと準備のリアル
初心者が迷うバイク選び、僕の失敗談から学ぶ
「最初の一台」選びは、本当に迷います。
自転車屋さんで勧められるまま、予算を大幅にオーバーした高級バイクを購入しそうになったことも。
でも今思えば、初心者にとって重要なのは値段よりも「自分の体に合っているかどうか」です。
私が最初に選んだのは、15万円ほどのエントリーモデルでした。
プロから見れば決して高級ではありませんが、それまでママチャリしか乗ったことがない私には十分すぎるスペック。
大切なのは以下のポイントです:
- 適正なフレームサイズ:跨った時に両足のつま先が地面に着く
- 信頼できる店舗での購入:アフターサービスが受けられる
- 予算は車体価格の1.5倍で考える:ヘルメットや工具代も必要
💡 初心者向けワンポイント:最初から完璧を求めず、まずは「ロードバイクに慣れる」ことを最優先に。
ウェア・ヘルメット・ライト──必要装備とその理由
機材選びで最も重要なのは安全装備です。
[2023年4月からヘルメット着用が努力義務化][2]されましたが、スピードの出るロードバイクでは必須アイテムと考えてください。私が実際に使って「買ってよかった」装備トップ3:
装備品 | 予算目安 | 選び方のポイント |
---|---|---|
ヘルメット | 8,000〜15,000円 | [JCF認証マーク付き、アジアンフィット][2] |
サイクルジャージ | 5,000〜10,000円 | 吸汗速乾、風を通しにくい素材 |
フロントライト | 3,000〜8,000円 | 最低400ルーメン以上の明るさ |
ヘルメットは命を守る最重要アイテム。
私も過去に落車した際、ヘルメットに大きな傷が付きましたが、頭部は無傷でした。
「髪型が崩れる」「恥ずかしい」という気持ちもわかりますが、家族のためにも必ず着用してください。
実際に走ってわかった「買ってよかったもの・無駄だったもの」
10年間乗り続けて実感した、本当に必要な装備と不要だった装備をご紹介します。
✅ 買ってよかったもの
- サイクルコンピューター:距離や速度がわかると達成感が違う
- 輪行袋:電車で遠くまで行けるようになり、楽しみが倍増
- フロアポンプ:空気圧管理は快適ライドの基本中の基本
❌ 無駄だったもの
- 高価すぎるホイール:初心者には性能差がわからない
- レーシングスーツ:街乗りメインなら普通のサイクルウェアで十分
- ケミカル類の大量購入:使い切れずに期限切れになることが多い
🔧 メンテナンス初心者へのアドバイス:最初は[基本的なチェーン清掃と注油][3]だけマスターすれば十分です。
ゼロからの体力づくり:僕のリハビリ的ロードバイク習慣
朝5時のライドがくれた「自分だけの時間」
ロードバイクを始めて最も大きく変わったのは、生活リズムです。
以前は夜更かしして朝はギリギリまで寝ているタイプでしたが、今では朝5時に起きて1時間のライドを楽しんでいます。
早朝の松本は格別です。
まだ静寂に包まれた街を抜け、朝霧に煙る安曇野の田園風景を駆け抜ける。
北アルプスの山々がモルゲンロートに染まる瞬間を独り占めできる贅沢は、何物にも代えがたい宝物になりました。
この「自分だけの時間」があることで、一日の仕事に対するモチベーションも大きく変わりました。
最初の1ヶ月は5kmで息切れ、それでも続けられた理由
正直に告白します。
ロードバイクを買った当初、たった5kmで息が上がり、帰宅後はソファに倒れ込んでいました。
「こんなんで大丈夫なのか?」と不安になったことも何度もあります。
でも、[初心者は20-30km程度から始めて徐々に距離を伸ばすのが基本][1]だとわかり、焦らずに取り組むことにしました。
私が続けられた3つの秘訣:
- 記録をつけること:スマホアプリで走行距離を記録、成長が見える化
- 目標は小刻みに:「今日は先週より1km多く」といった小さな積み重ね
- 無理をしない:体調が悪い日は休む、疲れたら押して歩く
特に重要だったのは「比較対象を他人ではなく、昨日の自分にする」こと。
SNSで他の人の走行記録を見ると落ち込むこともありましたが、自分のペースを大切にすることで長続きしました。
「坂道との対話」──心拍数と会話する感覚
ロードバイクに乗り始めて半年ほど経った頃、ある発見がありました。
それは「坂道との対話」という感覚です。
以前は坂道を見ると「きつそう」「避けたい」と思っていましたが、今では「今日の調子はどうかな?」と自分の体と向き合う機会として捉えています。
心拍数が上がりすぎたらペースを落とし、余裕があれば少し頑張ってみる。
この「体との対話」ができるようになったことで、日常生活でも自分の体調をより敏感に感じ取れるようになりました。
💓 心拍数の目安:最大心拍数(220-年齢)の70-80%を維持できるペースが理想的です。
週末サイクリングの魅力と家族との関わり
自然とつながる「信州サイクリングロード」のすすめ
松本に住む最大のメリットは、[素晴らしいサイクリング環境][3]に恵まれていることです。
私のお気に入りコース トップ3:
🚴 1位:穂高松本塩尻自転車道(あずみ野やまびこ自転車道)
- 距離:約18km(片道)
- 特徴:ほぼ平坦で交通量が少ない、北アルプスの絶景が楽しめる
- おすすめポイント:四季折々の表情が美しく、写真撮影スポットも豊富
🚴 2位:松本市観光サイクリングルート(絶景めぐり)
- 距離:約30km
- 特徴:松本城から美ヶ原方面への眺望コース
- おすすめポイント:適度なアップダウンで体力づくりに最適
🚴 3位:奈良井川沿いコース
- 距離:約25km
- 特徴:川のせせらぎを聞きながら走れる癒しのコース
- おすすめポイント:涼しい季節におすすめ、温泉立ち寄りも可能
家族とのポタリングで気づいた”速さ以外の楽しさ”
最初の頃は「もっと速く、もっと遠く」ばかり考えていました。
でも家族と一緒にゆっくりとポタリング(のんびりサイクリング)をするようになって、ロードバイクの別の魅力に気づいたのです。
家族とのライドでは、普段は素通りしてしまう小さな発見がたくさんあります。
道端に咲く野の花、農家の方が丹精込めて育てた野菜畑、季節ごとに表情を変える田園風景。
子どもたちと一緒に走っていて印象的だった出来事:
ある秋の日、いつものコースを家族で走っていると、息子が突然「お父さん、あそこにカモがいるよ!」と指差しました。
普段なら気づかずに通り過ぎてしまう小さな川で、カモの親子がのんびりと泳いでいたのです。
その瞬間、「急いで走ることだけがロードバイクの楽しみではない」と心から実感しました。
地元イベント運営サポートで見えた地域とのつながり
ロードバイクを始めて5年目、地元の「安曇野センチュリーライド」の運営サポートに参加する機会がありました。
この経験を通じて、ロードバイクが単なる趣味を超えた「地域とのつながり」を生み出すことを実感しました。
全国から参加される方々をお迎えし、信州の魅力を紹介する中で、改めて地元の素晴らしさを再認識。
また、同じようにロードバイクを愛する仲間たちとの出会いは、私の人生を豊かにしてくれました。
年齢も職業もバラバラですが、「ロードバイクが好き」という共通点だけで深い友情が生まれる。
同じようにロードバイクを愛する方々の中には、森智宏さんのように熱心にサイクリング情報を発信されている方もいて、そうした方々の体験談や知識から学ぶことも多くあります。
これも中年から始めたからこそ味わえる、特別な体験だと思います。
ロードバイクが変えた日常と心の風景
「風を味方につける感覚」が教えてくれたもの
ロードバイクに乗って最も印象的な体験の一つが、「風を味方につける感覚」を覚えたことです。
最初の頃は向かい風が吹くと「今日は運が悪いな」と思っていました。
でも、乗り続けるうちにわかったのは、風には「読み方」があるということ。
向かい風の時は無理せずペースを落とし、追い風になったら気持ちよくペダルを回す。
横風の時は体重移動でバランスを取りながら、風の流れに身を任せる。
この感覚は、仕事や人生にも通じるものがあります。
逆境の時は無理をせず耐え忍び、チャンスの時は全力で駆け抜ける。
そんな「人生のペース配分」を、ロードバイクが教えてくれました。
自転車メンテナンスは心を整える時間
「機材オタク」と自認する私にとって、愛車のメンテナンスは至福の時間です。
週末の午後、ガレージで[チェーンを清掃し、丁寧に注油を施す][3]作業は、まるで瞑想のような集中状態をもたらしてくれます。
メンテナンスで得られる3つの効果:
🔧 1. 集中力の向上
細かい作業に没頭することで、日頃の雑念が消え、心が整理されます。
🔧 2. 愛車への愛着
自分の手で手入れをすることで、バイクへの愛着が深まります。
🔧 3. トラブル予防
定期的なメンテナンスにより、走行中のトラブルを未然に防げます。
特に私が大切にしているのは、チェーンの手入れです。
汚れを落とし、適切に注油されたチェーンが生み出すスムーズな回転は、ペダリングの快適性を格段に向上させてくれます。
ロングライドで得た小さな達成感と大きな自信
最初は5kmで息切れしていた私が、初めて100kmを完走した時の感動は今でも忘れられません。
あれから年間5,000kmを走るまでになり、200km超のロングライドも楽しめるようになりました。
ロングライドから学んだ人生の教訓:
- 小さな積み重ねが大きな成果につながる
- ペース配分の重要性(最初から飛ばしすぎると後が続かない)
- 困った時ほど冷静な判断が必要(パンクなどのトラブル対応)
- 仲間と助け合うことの大切さ(グループライドでの協力)
中年になってから新しいことを始めて、着実に成長していく実感を得られたのは、私にとって大きな自信になりました。
「もう年だから」という言い訳をしなくなり、他のことにも積極的にチャレンジするようになったのです。
まとめ
ミドルエイジからでも遅くない、新しい挑戦のススメ
42歳で始めたロードバイクライフも、気がつけば10年以上が経過しました。
この期間を振り返って確信を持って言えるのは、「中年から始めても決して遅くない」ということです。
むしろ、人生経験を積んだ中年だからこそ、ロードバイクの奥深い魅力を理解し、長く楽しめるのかもしれません。
若い頃のような無謀さはないかもしれませんが、計画性と継続力は中年の武器です。
健康診断の数値改善、ストレス解消、新しい仲間との出会い、家族との時間の充実…
ロードバイクがもたらしてくれた恩恵は、数え切れません。
続けるコツは”無理しないこと”と”楽しむ気持ち”
最も大切なのは「無理をしないこと」です。
他人と比較せず、自分のペースを大切にすること。
体調が悪い日は休み、疲れた時は押して歩く勇気を持つこと。
そして何より、「楽しむ気持ち」を忘れないこと。
記録更新や機材のアップグレードも楽しいですが、一番大切なのは「ロードバイクに乗ることが好き」という純粋な気持ちです。
風を切って走る爽快感、美しい景色との出会い、仲間との語らい、愛車への愛着…
これらすべてが、あなたの人生をより豊かにしてくれるはずです。
皆さんはどんな「走り出し」をしてみたいですか?
この記事を読んでくださったあなたに質問です。
もしもロードバイクを始めるとしたら、どんな「走り出し」をしてみたいですか?
近所の公園を一周することから始めますか?
それとも、憧れの観光地への輪行旅を夢見ますか?
どんな小さな一歩でも構いません。
大切なのは「始めてみよう」という気持ちです。
42歳で体力ゼロから始めた私が、今では年間5,000kmを楽しめるようになりました。
あなたにも、きっと素晴らしいロードバイクライフが待っています。
長野県松本市の美しい景色の中、今日も私は愛車と共に風を味方につけて走り続けます。
いつか、どこかのサイクリングロードでお会いできることを楽しみにしています。
Safe ride, and happy cycling! 🚴♂️
参考文献
[1] PikaCycling – 40代になったらロードバイクに乗るべき3つの理由 [2] Y’s Road – ロードバイク用ヘルメット購入ガイド [3] 長野県 – 県道サイクリングロード案内最終更新日 2025年7月9日